【感想】生きてさえいれば

小坂流加さん著者の小説の感想です。

 

2018年12月に発表された小説なのでもう一年半ほど前の作品になります。

数ヵ月前に書店で手に取ったものの、しばし我が部屋にて積まれていたところこのコロナ禍のおかげで生まれた時間に読了しました。

 

小坂さんの前作、『余命10年』も2年くらい前に読みました。

もううろ覚えではありますが、こちらの作品が感動し印象に残っていたので『生きてさえいれば』も期待のもと読みました。

 

 

簡単にあらすじを紹介すると

 

物語は小学生の千景が大好きな叔母"ハルちゃん"の病室にて見つけた宛名しか書かれていない便箋を届けるところから始まります。

無事会えた宛名の人物"秋葉"は、千景の質問を機に大学時代に"春桜(はるか=ハルちゃん)"と過ごした時間と突然起きた不幸な出来事について思い返す‥という、恋と死をテーマにした物語になります。

 

前作の主人公は20代の女性で難病のため余命が10年と宣告されたために生と死に向き合うお話でした。

今作も大学生の頃の恋をベースに死というテーマが絡んできます。

 

春桜と秋葉、そしてその家族や友だちなど登場人物の心情と引き込まれる文章でとても丁寧に書き上げられています。

人物の名前に春夏秋冬が含まれていますが、作中でもこの名前がそれぞれを結び付ける重要なファクターになります。

特に物語後半、様々な出来事が一挙に押し寄せる怒濤の展開とクライマックスは一度に色々な感情をもたらします。

 

 

実は回想に入る前の冒頭の時点である程度予測は可能なのですが、たとえ予測ができていても「どうか、最悪な結末にはならないでほしい」と希わずにはいられなくなります。

 

また恋愛だけではなく、友情の部分でも私的には良い意味で胸が締め付けられました。

クライマックス間近の秋葉と友人であるジンの会話はつい涙がにじみました。

 

読了後は様々な感情と満足感で確かなカタルシスを覚えるのではないでしょうか。

 

 

しかし最後に一点、著者小坂流加さんのことでも想いを馳せずにはいられません。

著者は前作『余命10年』の文庫版の編集が終わったほんの一月後に、『余命10年』の主人公と同じ病にて亡くなられているそう。

この『生きてさえいれば』も没後に発見されたとのことです。

自身が闘病されていたからこそ、小坂さんにしか作り出せなかった物語で

今なお生きている私たちだからこそ、これだけこの物語に惹かれるのかもしれません。

叶うならばもっともっと著者の作品を読みたかった。

 

ご冥福をお祈りします。